映画『パリ、ジュテーム』を観た。
パリを舞台にパリを愛する世界中の映画監督たちが撮った18編の珠玉の短編集。
ウィットに富んだパリっ子たちの日常を、天使になってパリの上空から覗き見たような作品だった。彼らの様々な歓び、悲しみ、出会い、別れ、愛の瞬間をちょっとだけ切り取ったようで、いつの間にか自分もパリの街角に立っているように思えてきた。決して「I love NY」や「東京、愛してる」では、こうしたニュアンスは出せないに違いない。観終わってからとても幸福な気持ちが溢れてくる、お気に入りの映画になった。
『アメリ』のプロデューサー、クローディー・オサールの呼びかけで集まった監督たちは、バラエティに富んだパリの表情を見事に描いている。それは、街角や家の中そして路上やカフェで過ごす人々の日常の一瞬一瞬にあった。
全てが良かったが、特に気に入ったのが、シルヴァン・ショメ監督の「エッフェル塔」、アルフォンソ・キュアロン監督の「モンソー公園」、フレデリック・オービュタン監督とジェラール・ドパデュー監督の「カルチェラタン」の三作品。
「エッフェル塔」は、マイム・アーティストを描いた、ちょっと『アメリ』を思わせる陽気な作品だ。孤独だったマイム・アーティストの男がふとしたキッカケで生涯の伴侶と出会って、二人の子供が学校に行くのを見送る。
彼らを見ていると世界は幸福しかないと思えてしまう。子供が見せる満面の笑顔が印象的だった。
「モンソー公園」は、ニック・ノルティ演じる初老の男と「スイミング・プール」のリュデュビーヌ・サニエ演じる若い娘のクレアが、謎の男"ギャスパール"の話をしながらモンソー公園まで歩く。ちょっと意味深な会話の意味は・・・。
話しながら歩く二人を、長回しのカメラで納めたほぼ1カットの作品だ。二人の会話のテンポが秀逸。オチに思わず笑みがこぼれてしまう。
「カルチェラタン」は、別居生活の長い初老の夫婦ベンとジーナが正式離婚の手続きのため数年ぶりに学生の街カルチェラタンのレストランで出会う。二人にはそれぞれ付き合っている相手がいるが、まだお互いに気持ちは残っているよう。しかし、ベンと若い愛人には妊娠3ヶ月の子供が出来て正式離婚する必要が出来た。
二人の複雑な気持ちが見え隠れする、大人の会話を楽しませてくれる一編。ジェラール・ドパデュー演じるレストランのオーナーのさり気ない一言がパリっ子の粋を感じさせる。
その他の作品も印象的で、書きだせばキリがない。ただ、一編一編はささやかな作品なので、それだけを観たら大した作品ではないように思えるだろう。そういった意味で、この映画は全編でパリ全体に光を当てて様々な表情を写し撮っていると言うべき作品だ。
それにしても、パリはどうしてこれほど映画になる素敵な街だろう。しかも、全編を見ていると、"パリは大人の男女が暮らす街"なんだと感じさせる。観光で写される街やファッションの街ではなく、東京の下町と同じ親しみ易い風景が至る所にあって、そこではパリっ子達が愛し合い活き活きと暮らしていた。DVDが出たらさり気なく流しておきたい、パリの風景のような映画だった。
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